家庭ごみなどの一般廃棄物は市町村が処理することになっています。そのため、各市町村はごみ焼却施設を整備しなければなりません。ごみ焼却施設は、燃焼方式によってストーカ炉・流動床炉・ガス化溶融炉などに分けられますが、ストーカ炉については、日立造船・JFEエンジニアリング・タクマ・三菱重工業と川崎重工業が「大手5社」と呼ばれ、地方公共団体が入札等により発注したストーカ炉の大半を大手5社が受注していました。神戸市もストーカ炉を建設することにし、平成7年に指名競争入札を行った結果、落札した川崎重工業との間で請負契約を締結しました。
ところが平成11年8月13日、公正取引委員会により、大手5社が地方公共団体発注のストーカ炉を採用するごみ焼却施設建設工事に関し、談合を行っていたとして排除勧告(平成17年独禁法改正前の制度です)がなされました(大手5社は審判で争いましたが、談合を認める審判審決がなされました。大手5社は審決取消訴訟で争っています)。
そこで、神戸市は公正な競争がなされたと想定した場合の正常な落札価格より談合によって高額の代金を支払わされたのでその差額の損害を被っているのに神戸市長が損害賠償請求しないとして、平成12年、神戸市民が市に代位して賠償を求める住民訴訟を提起しました。平成18年11月16日、1審神戸地裁は談合を認め、被告川崎重工業に対して13億6475万円の賠償を命じましたが、平成19年10月30日、2審大阪高裁はこれを増額して契約金額の6%にあたる16億3770万円の賠償を命じる判決を下しました。
入札談合においては、まず談合参加企業の中で受注調整を行うための基本的なルールを決め(基本合意)、次にこれに基づいて個別の物件について受注させることを取り決める(個別談合)のが大半です。基本合意については担当者が立入検査直後に行った供述やメモ類が決め手となり、受注機会の均等化を図る基本合意がなされていたと認められました。被告は談合担当者の供述やメモに齟齬が見られることから談合はなかったと主張しましたが、判決では受注調整に関し主要な点で符合しているとされました。
次に、個別談合については、神戸市の入札において談合がなされたことを示す供述やメモなどがないとして被告はこれも争いました。しかし判決は、5社が平成6年4月から平成10年9月17日までの間、基本合意に基づいて継続的、恒常的に談合を行っていたとし、談合が行われた期間中の大規模工事であることや落札に至る経緯などから本件工事についても談合を認めました。
さらに被告は、1審判決後に神戸市が川崎重工業に内容証明郵便を出し損害賠償請求権を行使しているから神戸市が財産管理を怠ってはいないと主張しましたが、判決は神戸市の書面は単に本件訴訟に依拠して支払いを求めたものに過ぎないとして神戸市が財産管理を怠っていると認めました。また被告は神戸市が独禁法25条訴訟を選択したから神戸市が財産管理を怠ったと言えないと主張しましたが、判決は、債権行使には原則として裁量はないとしつつ、不法行為による損害賠償請求権について行使しない合理性がある場合には例外が認められるとした上で、本件工事は審決が個別談合を認めた工事に含まれていないため独禁法25条訴訟を容易に提起できるとは言えないことや損害賠償請求権が時効消滅するおそれがあることなどから損害賠償請求権を行使しないことに合理性がないとして財産管理を怠ったことを認めました。
川崎重工業は上告等しましたが、秘密裡に行われる談合の認定や「怠る事実」の判断について参考になる事例として紹介します。
川崎重工業に16億円の賠償命令
弁護士 中嶋 弘