(1)
本件約款によれば,無保険車傷害保険金は,被害者等の被る損害の元本を填補するものであり,損害の元本に対する遅延損害金を填補するものではないと解されるから,本件約款に基づき被害者等に支払われるべき無保険車傷害保険金の額は,被害者等の被る損害の元本の額から被害者等に支払われた自賠責保険金等の全額を差し引くことにより算定すべきであり,自賠責保険金等のうち損害の元本に対する遅延損害金に充当された額を控除した残額を差し引くことにより算定すべきものとは解されない。
(2)
無保険車傷害保険金の支払債務に係る遅延損害金の利率は,商事法定利率である年6分と解すべきである。
(1)
無保険車傷害保険とは,昭和51年頃から特約として自動車保険に付されるようになったもので,加害車両が無保険車である場合(任意保険に加入していない場合),被害者である被保険者等が,加害者に対して賠償請求をすることができる額を保険金として支払うというものである。
(2)法的性質
- 被害者である被保険者等に生ずる損害を填補する保険(傷害保険説)
- 加害者から十分な損害の填補を受けることができないおそれがある場合に加害者に代わって損害を填補する保険(責任保険説)
事故時に胎児であった原告が,無保険車傷害保険を請求できるかどうかが争われた事案である。最高裁は,下記(1),(2)のように判示し,胎児に生じた損害も被保険者の同居の親族に生じた損害に準ずるものとして保険金請求を認容した。
(1)
無保険車傷害条項は,被害者である被保険者等に生ずる損害を填補する保険であるから,傷害保険であって,責任保険ではないと解される。責任保険であれば,賠償義務者が損害賠償責任を負うことによって被る損害がそのまま保険金の支払対象となるので,賠償義務者が民法721条により保険事故時に胎児であった者に対して責任を負う以上,保険金が支払われるということになると思われるが,無保険車傷害条項は,傷害保険であるから,このように当然に保険事故時に胎児であった者に生じた被害について保険金が支払われるということにはならない。
(2)
しかし,無保険車傷害条項による保険金は,法律上損害賠償請求権があるが,加害車両が無保険車であって,十分な損害の填補を受けることができないおそれがある場合に支払われるものであって,賠償義務者に代わって損害を填補するという性格(責任保険的な性格)を有しているから,保険契約は,賠償義務者が賠償義務を負う損害はすべて保険金による填補の対象となる(ただし,免責事由があるときは填補されない)との意思で締結されたものと解するのが合理的であると考えられる。
(1)無保険車傷害保険と人身傷害補償保険
本判決は,無保険車傷害保険に関する残された論点について判断したものである(平成18年最高裁判例解説(民事篇)(上)410頁以下参照)。
ところで,現在(平成24年)では,自動車保険約款が改訂され,無保険車傷害保険は人身傷害補償保険に統合されつつあると思われるが,まだ両保険が併存しているのであれば,被害者としては,人身傷害補償保険よりも無保険車傷害保険を請求した方が有利である。なぜなら,人身傷害補償保険は損害が約款基準で算定されるが,無保険車傷害保険では加害者に請求しうべき金額(裁判基準)を請求できるからである。
ただし,現在では,併存している場合であっても,約款において無保険車傷害保険に関する損害の算定つき人身傷害補償保険と同じ算定基準による旨が明記されていることが多いように思われる。そのような約款の定めがある場合に,従来どおり裁判基準に基づいて請求できるかどうかは不明である。
(2)人身傷害補償保険金の請求と加害者への損害賠償請求の先後
なお,本判決とは別であるが,人身傷害補償保険に関して,近時,最判平成24年2月20日が言い渡された。この最判によれば,特に被害者側の過失相殺割合が大きい場合,被害者としては,人身傷害補償保険を先に請求するか,加害者に対する損害賠償を先に請求するかによって,結論が違ってくることになる。すなわち,この最判によれば人身傷害補償保険を支払った保険会社が加害者に対して代位請求できる範囲は,いわゆる裁判基準差額説に基づくものとし,かつ,遅延損害金は代位できないとした。
その結果,この最判の考え方を前提にすれば,被害者が,加害者に対する損害賠償請求よりも後に人身傷害補償保険を請求した場合に「控除」される金額よりも,加害者に対する損害賠償請求よりも先に人身傷害補償保険を請求した場合に,保険会社の「代位」できる金額(範囲)の方が小さくなることがあるため,被害者の立場からすれば,先に人身傷害補償保険を請求し,その後,加害者に対して損害賠償請求する方法が有利なケースが生じるということになる。
宮川裁判官が補足意見において,請求の先後による不均衡が生じないように限定解釈すべきであると述べているが,現状,請求の順序によって結論が異なる可能性があるため,注意が必要である。